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研究室紹介

1970年くらいまで、生物同士もしくは生物と環境の関係は、一つの生態系のなかで克明に調べられてきました。ところが、日本では1960~1970年代に高度経済成長期を迎え、森林を伐採したり、農地を開発したり、道路を開設したりといったさまざまな開発行為が行われ、連続した生態系はバラバラに分断されました。
その結果、多くの生物種が絶滅するという事態が起こり、私たちが目にする生態系のほとんどは、一つ一つ独立して維持されているのではなくて、周辺の生態系と、植物や動物、そして栄養塩や有機物など物質の移動をつうじて繋がっていることがわかってきました。
一つの生態系は周辺生態系のつながりのなかで滋養され、また逆に一つの生態系の破壊は周辺生態系の健全性にも影響を与えることがわかってきたのです。

このような様々な生態系の集まりを景観(ランドスケープ)と呼びます。生物種の多くは、生活史のステージごとに異なる生息場(生態系)を利用したり、他の生態系からの恩恵を受けて生育・生息するため、景観の構造と動態をまるごと保全することが重要です。
たとえばケショウヤナギという植物種があります。この種は、洪水などによるかく乱を頻繁に受ける河川沿いで谷底が広がった区間や、扇状地に生育します。この種にとっては、水の流れが頻繁に変動することが重要です。ケショウヤナギの発芽に適するのは河原の砂礫地ですが、こうした立地は渓流の流水によるかく乱を常に受けます。そして流れが大きく変動したことによりまれに偶然安定した地形面ができると、母樹まで成長できます。つまり、このような変動を繰り返す川のダイナミズムそのものが、ケショウヤナギの各成長段階で必要な生育環境をセットとして提供しているといえます。ケショウヤナギばかりでなく、河畔林を構成する樹種の多くは、親と子が必要とする生育環境が異なっています。つまり、川の流れが動くことによってのみ、多様な樹種が一生を通じて必要とする生育環境が保たれることになるのです。

動物も同様です。雪解け出水がおさまりかける春に、海から川を遡上するサクラマス親魚は上流域に向かい、初秋に淵尻で産卵します。冬に孵化した稚魚は、融雪増水を利用して下流に流れだし、岸際の流れの遅い場所を利用しながら河川全体に広く分布します。川の表面を覆う河畔林は、太陽からの日射を遮断し、水温を低く保ち、冷水を好むサクラマスが生息できる環境を作りだします。また、秋に水辺に張り出した枝からは、落ち葉や陸生昆虫が川に落ちます。落ち葉は、底生動物の餌となり、底生動物は陸生の落下昆虫とともに魚の餌になります。この他にも、鳥類やコウモリ・モモンガなど飛翔するほ乳類にとっても、川から羽化する昆虫や森が生む果実等は貴重な餌となり、移動するためにも回廊としてつながった幅広い河畔林が必要なのです。 

一方で、森林、河川、湿地生態系は、入植時、戦後ならびに高度経済成長期に大きな変貌を遂げました。こうした生態系変化の歴史を知ることは、とても重要です。生態系変化の歴史は森林の年輪にも刻まれていますし、湖底や湿地の堆積物中に存在する放射性同位体元素や花粉によっても知ることができます。人間が土地利用を始める前の自然生態系の様子を知ることは、現在そして未来に向けてどのような管理をしていくべきかの道標を与えてくれ、自然再生事業を実施するためのベースラインデータにもなります。

森林生態系のうち天然林は、戦後の拡大造林によって伐採され、トドマツ・カラマツなどの人工林に変えられました。現在それらの人工林は伐期を迎えていますが、日本の木材自給率は未だ20%程度です。中国やインドなどの新興国での天然資源の利用が高まり、石油と同様、今後木材資源は世界で枯渇する可能性があります。人工林のみならず、天然林についても、どのように生態系の構造と機能を維持しながら資源を確保していくかが重要な問題です。また、河川・湿地生態系も、直線化を伴う河川改修ならびに流域からの負荷を受けて変貌し、急激に生物種が減少しつつあります。このような劣化した生態系をいかに、再生・修復していくかも大きな社会的テーマとなりつつあります。 

以上の観点から、当研究室では、林分単位のみならず、こうしたランドスケープの視点から、複合生態系を合理的かつ計画的に保全し利用していくためのさまざまな基礎的および応用的研究を実施しています。

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