研究室紹介

生態系管理学研究室は、生物多様性保全、気候変動対策、劣化した自然の再生、この3つを主要課題と位置付けています。その理由をご説明します。
2009年にヨハン・ロックストローム博士が科学雑誌NatureでPlanetary Boundary(地球の限界)を発表(Rockström, Nature 2009)して以来、地球上の生物多様性の損失、気候変動の影響、土地利用の変化を含む7分野が、人類の生存を脅かすレベルにまで悪化しており、対策は急務です(図1)。
図1:地球の限界 (Stockholm Resilience Centerより引用改変)
これら3分野は、互いに深く関連しています。
まず、土地利用の変化、具体的には、劣化地の増加について、考えてみましょう。劣化地とは、何らかの外力で土地被覆の状態が大幅に変化した土地(Gibbs et al., 2015, Applied Geography)を指します。日本の劣化地の例をいくつか挙げてみましょう。一例目は、自然災害跡地です。日本は、プレートの沈み込み帯に位置し、温帯モンスーン気候であるため、元来、地震・火山活動・台風による生態系破壊が頻繁に起こる国です。近年は、気候変動による火災・強い台風・豪雨が増加しているため、さらに生態系破壊の頻度は増加しています。次に挙げる例は、石炭や鉱物などの採掘跡地です。足尾銅山では、森林伐採・山火事・亜硫酸ガスの影響で、植生が失われましたが、精力的な緑化により55年かけて植生回復してきましたが回復途上の跡地は多く残されています。最後に挙げる例は、耕作放棄地です。北海道では特に、少子高齢化・担い手不足が原因となり都市から離れた過疎地域で耕作放棄地が拡大しています。
このように、日本でも劣化地は増大しており、健全な生態系を回復させることは、世界共通の課題であることは明白です。では、健全な生態系とはどんな特徴を持っているのでしょうか。
まず、森林は、炭素を蓄積し生物多様性を育んでいます(図2)。気温の高い熱帯林では、成長が早いので地上で多くの炭素を蓄積、気温が低い北方林では、分解が遅いので地中で炭素を蓄積しています。それぞれの森林では、特有の生物多様性が育まれており、地球全体の生物種の約80%が森林に依存しています。したがって健全な森林生態系を守り再生することは、気候変動の対策にもなり、生物多様性を保全することにもなります。
図2:森林の炭素蓄積量(Carbon Streamingより引用改変)と特有の生態系で育まれる動植物(森本©︎)
いっぽう、湿地は、気候変動で発生頻度が高まる洪水氾濫から人を守り、生物多様性を育んでいます(図3)。北海道に3つの台風が連続して到来した2016年豪雨時、釧路川は氾濫し釧路湿原は水浸しになりました。けれども、水文モデルの予測結果から、湿地があることでピーク流量は30%カットされ、ピーク流量の下流への到達は2日間遅延したことが示されました。また、湿地では魚類・鳥類・植物など特有の生物多様性を育み、地球全体の生物種の約40%が依存するともいわれています。つまり、湿地を守り再生させることは、気候変動による極端現象への適応策になり、貴重な生物に生育・生息場を提供することにもなります。
図3:釧路川の様子 (Nakamura et al. 2019) と釧路湿原で育まれる動植物(石山©︎)
このように、劣化した土地に健全な森林や湿地を再生することは、気候変動対策になり、なおかつ生物多様性保全にもなるのです。以上の理由から、当研究室では、生物多様性保全、気候変動対策、劣化した自然の再生、この3つに資する研究課題に取り組んでいます。


