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論文紹介コーナー

~研究室メンバーが、最近出版された論文を紹介します~

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ナメクジの出現を事前に予測!明日のナメクジ予報をリリース!

 

Morii, Y.1*, Ohkubo, Y.1 & Watanabe, S., 2018. Activity of invasive slug Limax maximus in relation to climate conditions based on citizen’s observations and novel regularization based statistical approaches. Science of the Total Environment (STOTEN) 637–638: 1061–1068.

農業害虫として知られるナメクジがどのような環境条件で活発化するのかという問題は,防除や基礎生態の観点から長年に渡り活発に議論されてきました。一方で,野外の環境は極めて複雑であるため,気温や湿度,風速,雨量,日照量などの多様な気象条件のうちどの要素が,それぞれどの程度,ナメクジの活動性に影響を与えているのかは,今までわかっていませんでした。

 

札幌市在住の市民である渡辺早苗氏が札幌市中央区の円山原始林で行ったマダラコウラナメクジ(図)の長期観察に基づき,ナメクジの活動性と気象条件との関係を調べました。マダラコウラナメクジは2006年に日本に侵入・定着したばかりの体長 10〜15 cmほどにもなる北欧原産の大型ナメクジで,世界的に有名な侵略的外来種であるほか,農作物を食害する害虫としても知られています。渡辺氏は2015・2016年の2年間に渡りほぼ毎日(716日間),毎朝5時から円山(標高225 m)に登り,登山道沿いに出現したマダラコウラナメクジの個体数を記録し続けました。この研究では渡辺氏による長期観察データに加え,気象庁・札幌管区気象台の公開する詳細な気象データと,最近の進歩の著しい機械学習の研究を援用したことで,複雑に絡み合う野外での環境条件とマダラコウラナメクジの活動性との関係性を示す詳細な統計モデルを作成しました。結果として,ナメクジが活発化する時の環境条件だけでなく,前日の気象条件から翌日のナメクジの動向を推定し,ナメクジの出現を事前に予測するナメクジ出現予報を提示することにも成功しました。

             

この研究は,1)市民科学による観察,2)行政が主導し公開する長期モニタリング,3)研究者による高度な解析のコラボレーションが,外来種の脅威に対して極めて効果的に,大きな成果を納めることに繋がることを示すものです。世界的に侵略的外来種として名高いマダラコウラナメクジの基礎的な知見が得られたことで,今後の対策にも世界的に役立てられると期待されると同時に,市民/行政/研究者の間の惜しみない協力が外来種問題への対処に必要であることを示す成果と言えます。(​森井悠太)

             

図:マダラコウラナメクジ

殻を振り回して天敵をノックアウトするカタツムリの収斂進化

 

Morii, Y., Prozorova, L., Chiba, S., 2016. Parallel evolution of passive and active defence in land snails. Scientific Reports 6: 35600.

地球上の多様な生物は,どのように進化を遂げたのか。この問題は,ダーウィン以来150年以上も問われている進化生態学における重要課題ですが,未だに解明されていない謎が多く存在します。例えば,「捕食者ー被食者間相互作用(食う食われるの関係)」が,被食者の進化にどのような影響を与えるのか,という問題もそのひとつです。果たして捕食者は,被食者の種や表現型の多様化を促進させるのでしょうか,あるいは抑制させるのでしょうか。またもし促進させるとするならそれはなぜでしょうか。

 

北海道とロシア極東域に分布する計2種のカタツムリが,殻を振り回してオサムシを撃退するという,極めてユニークな積極的防御行動をとることを発見しました。一方その近縁種群は,オサムシの攻撃に対し殻に身体を引っ込めるというカタツムリ類一般に見られる消極的防御行動を示しました。積極的防御と消極的防御の行動の差異は,殻形態の差異にも現れており,行動と形態の双方が互いに関連して相容れない2つの防御戦略として機能していると考えられます。さらに,それらの2つの防御戦略が,北海道とロシア極東地域において独立に分化したことが明らかにされました。このように捕食者に対して二者択一的な戦略があること,そしてそのいずれの戦略をとるかによって,被食者であるカタツムリの種と表現型が分化したことが強く示唆されました。

この研究は,地球上の生物はどのようにして多様な種や表現型をもつに至ったのかという問題に対し,「捕食者ー被食者間相互作用」の重要性を示唆するものであると言えます。「資源をめぐる競争」の重要性が強調されている現在の通説に再考を迫るものです。生物の種や表現型の多様化メカニズムの総合的な理解に,極めて重要な実例となると期待されます。(森井悠太)

殻を振り回す「攻撃」防御戦略をとるエゾマイマイ(上)と、エゾマイマイに近縁であるが殻に引っ込む「引きこもり」防御戦略をとるヒメマイマイ(下)

夜行性鳥類ヨタカの命運やいかに―気候と土地利用で決まる広域分布―

 

Kawamura, K., Yamaura, Y., Senzaki, M., Yabuhara, Y., Akasaka, T., Nakamura, F. (in press) Effects of land use and climate on the distribution of the Jungle Nightjar (Caprimulgus indicus) in Hokkaido, northern Japan. Ornithological Science.

宮沢賢治の童話「よだかの星」の主人公、夜行性鳥類のヨタカは若い人には馴染みのない鳥のようです。ヨタカは、かつては日本に数多く生息し、「キョキョキョキョ…」という独特な甲高い声は、夏の夜を代表する音でした。しかし、本種は現在、日本で最も減少している鳥類種であり、環境省の第4次レッドリストでは準絶滅危惧種に指定されています。ヨタカは森林の伐採地や若い植林地で営巣することが知られており、戦後の林業活動の衰退や草地の減少が、ヨタカの減少の原因ではないかと指摘されています。

本研究では、ヨタカの生息調査を北海道全域で行い、ヨタカの広域分布を決定する要因を調べました。その結果、ヨタカは夏の気温が高く、森林が適度にある(周囲4kmの森林率が75%)地域に多く、気候よりも森林率の影響の方が大きいことが明らかになりました。今後の地球温暖化に伴って北海道のヨタカの個体数は増加する可能性がある一方、耕作放棄地が森林化することによる減少が懸念されます。ヨーロッパでは、近縁種ヨーロッパヨタカの個体数が、林業の活性化に伴って回復してきています。日本のヨタカも、林業活動で伐開地を作り出すことにより、広域的に保全することができるかもしれません。(河村和洋)

ヨタカ(高木慎介さん撮影)

図. 500m四方内に縄張りを形成する雄の個体数の予測図

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猛禽類の保全は他の鳥類の保全につながるか? 巣立ち雛の数から迫る

 

Senzaki, M., Yamaura, Y., Nakamura, F. 2015. The usefulness of top predators as biodiversity surrogates indicated by the relationship between the reproductive outputs of raptors and other bird species. Biological Conservation 191:460-468.

猛禽類の生息地の保全は,それ以外の多くの生物の保全にもつながると仮定され,多くの生物多様性保全の現場で実践されています。しかし,猛禽類を指標種として,他の生物の個体数や繁殖成功度の高い地域を保全できるかどうかは長らく不明なままでした。

 

本研究では,北海道苫小牧地方の湿原帯において,チュウヒという湿地性の猛禽類の繁殖成功度(巣立ち雛数)を3年間調べ,チュウヒの巣立ち雛数が多い湿地を明らかにしました。そして,チュウヒの巣立ち雛数が多い湿地で,他の小鳥 の親鳥と巣立ち雛が多いかどうかを調べました。小鳥の繁殖成功度を広域的に調べるのは従来困難でしたが,小鳥の捕食者への警戒声を拡声器で流して,親鳥だけではなく巣立ち雛をおびき寄せる新たな手法を開発し,この課題を克服しました。

 

その結果,チュウヒの巣立ち雛数が多い湿地では,複数種の小鳥の親鳥と巣立ち雛が多いことがわかり,チュウヒの巣立ち雛数から小鳥の巣立ち雛数を広域的に予測するモデルを作ることができました。これらのことから,チュウヒの繁殖成功度が高い湿地を保全すれば,その他の小鳥の繁殖成功度の高い地域も保全できることが明らかになりました。(先崎)

撮影:先崎理之

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北海道のヒグマ、肉食から草食傾向へ-考古試料の安定同位体分析から-

 

Jun Matsubayashi, Junko O. Morimoto, Ichiro Tayasu, Tsutomu Mano, Miyuki Nakajima, Osamu Takahashi, Kyoko Kobayashi & Futoshi Nakamura. 2015. Major decline in marine and terrestrial animal consumption by brown bears (Ursus arctos), Scientific Reports 5: 9263.(DOI: 10.1038/srep09203) http://t.co/9Af7wiV3TX

ヒグマは日和見的な雑食性の動物であり、食物資源の可給性に合わせて食性を変化させます。私たちは、日本の北海道に生息するヒグマを対象に安定同位体分析を用いた食性解析を行い、ヒグマの歴史的な食性の変化を調べました。その結果、かつての北海道のヒグマは、現代に比べてシカやサケといった動物質を多く利用していたことがわかりました。また、この食性の大きな変化が、北海道での開発が本格化した明治時代以降に急速に生じたことを明らかにしました。

 

本研究の成果から、北海道ではヒグマの食物資源の可給性がここ200年の間に大きく変化しており、それが人為的要因に起因している可能性が示されました。ヒグマは広い行動圏を持つ雑食動物であることから、このような食物資源の可給性の変化は、ヒグマのみならず北海道の生態系全体に影響を及ぼしていると考えられます。(森本)

図:動物質食物利用の指標となる、窒素同位体比値(δ15N)の時間変化。明治時代の創始期である1860年前後を境にδ15N値が減少し始めたことが分かる。(クリックで拡大します)

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生物指標の分布とタイムラグ

 

Yamanaka, S., Akasaka, T., Yamaura, Y., Kaneko, M., Nakamura, F. 2015. Time-lagged responses of indicator taxa to temporal landscape changes in agricultural landscapes. Ecological Indicators 48: 593-598.

環境改変が地域の生物多様性にもたらす影響を調査するための手法として、ある特定の分類群の反応を指標とする手法があります(生物指標;Biological indicator)。生物指標には一般的に生息環境の変化に応じて種数や個体数を迅速に変化させる生物種が用いられます。しかしながら近年、生物の分布パターンは現在の景観構造だけでなく過去の景観構造による影響を受けることが指摘されています。そこで本研究では、生物指標として用いられることの多い2つの分類群(オサムシ科甲虫・小型コウモリ類)の分布が過去の景観構造によって影響を受けているのか検証を行いました。

 

調査の結果、これらの分類群の内のいくつかのグループ(大型のオサムシ種・25kHz周波数帯のコウモリ種)の分布は、現在よりも過去の景観構造(1950年代の周辺の森林率)に影響を受けていることがわかりました。これらの生物種の分布パターンは、「現在」だけでなく「過去」の環境も反映していると考えられます。景観構造の大きな変化を近年経験した地域では、このような生物種を指標種としての利用する際には注意が必要かもしれません。(山中聡)

生物多様性保全と両立した都市計画の検討 -土地の節約戦略と共有戦略の比較-

 

Soga, M., Yamaura, Y., Koike, S., Gaston, K. J. 2014. Land sharing vs. land sparing: does the compact city reconcile urban development and biodiversity conservation? Journal of Applied Ecology

近年、健康福利・自然環境保全の面から、都市の生物多様性を保全する気運が高まっています。本研究では、都市の開発形態と生物多様性の関係を調べました。ここでは二つの対照的な開発戦略を想定し、両戦略の利点を明らかにしました。一つは単位面積当たりの開発強度を最大化させることで開発面積を抑える「土地の節約戦略(land sparing)」で、もう一方は開発面積を最大化させることで単位面積当たりの開発強度を抑える「土地の共有戦略(land sharing)」です。

 

環境指標性が高いチョウ類と地表性甲虫類を対象とした野外調査・解析の結果から、土地の節約戦略は生物多様性を保全する上で大きなメリットがあることが分かりました。この傾向は、チョウ類よりも飛翔能力が乏しく、森林環境に依存した種が多い地表性甲虫類において顕著でした。一方、一部のチョウ類では土地の共有戦略の方が保全上のメリットが高いことも明らかとなりました。以上のことから、地域の生物分類群を包括的に保全するためには、土地の節約戦略と共有戦略の両方が必要であると言えます。(曽我昌史)

図:土地の節約戦略と共有戦略の概念図

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川の蛇行復元を評価する - 釧路川の事例 -

 

Nakamura, F., Ishiyama, N., Sueyoshi, M., Negishi, J. N., Akasaka, T. 2014. The Significance of Meander Restoration for the Hydrogeomorphology and Recovery of Wetland Organisms in the Kushiro River, a Lowland River in Japan. Restoration Ecology 22:544-554.

近年,先進国を流れる多くの川は,治水や周辺の土地利用の開発によって,本来の“まがった川”から“まっすぐな川”へと改変されてきています。この直線化の進行は,河川の地形を単調にするだけでなく,河川と周辺の氾濫原とのつながりを失うことで,多くの河川・湿地性動植物の減少を引き起こしており,その効果的な再生方法が求められてきました。こうした現状を踏まえ,2007年2月から2011年3月にかけて,ラムサール条約にも登録されている日本最大の釧路湿原を流れる釧路川において,以下の4点を目標とした河川の蛇行復元事業が行われました。

 

 

(1)魚類・水生昆虫の生息環境の復元

(2)氾濫頻度の向上による湿原植生の復元

(3)下流の湿原帯への土砂・肥料由来の栄養塩の流出防止

(4)自然状態に近い河川景観の復元。

 

本研究の目的は,上記の目標が蛇行復元事業によって達成されたか否か,科学的に検証することです。事業前,そして事業後にかけて実施されてきた,動植物の多 様性や物理環境に関するモニタリング調査結果,ならびに現地調査から検討しました。その結果,全ての目標が今回の再生事業によっておおむね達成されており,蛇行復元が河川・湿地生態系の復元にとって有効な手法であることが明らかとなりました。(中村太士)

蛇行復元地点(クリックで拡大)

蛇行復元事業(クリックで拡大)

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生物多様性と木材生産を両立する土地利用戦略の検討 ―鳥類を指標として―

 

Yoshii, C., Yamaura, Y., Soga, M., Shibuya, M., Nakamura, F. 2014. Comparable benefits of land sparing and sharing indicated by bird responses to stand-level plantation intensity in Hokkaido, northern Japan. Journal of Forest Research:1-8.

木材需要の増加を背景に、木材生産性の高い人工林が世界的に拡大しています。単一な樹種で構成される人工林は生物多様性が低いことで知られています。

資源生産と生物多様性の保全を両立する土地利用方法として、人工林に広葉樹を混ぜて同じ土地で生産と保全を行う「Land sharing (ランドシェアリング)」と保護区の設置により生産と保全を分ける「Land sparing (ランドスペアリング)」の2つの方法があります。本研究では、人工林において木材生産量と広葉樹の混交量に対して鳥類の数がどのように変化するのかを調査し、個体数の変化の仕方から日本の森林において生産と保全を両立する土地利用方法を考察しました。

 

解析の結果、調査を行った森林ではsharing(シェアリング)とsparing(スペアリング)には明確な優劣関係が見られないことが示されました。この結果は、どちらが優れるかという二極化した議論でなく、資源生産量と生物多様性の関係以外にも社会経済的背景や地形的な効率性なども考慮に入れて生物多様性の保全計画を練る必要があることを示唆しています。(吉井千晶)

(写真:1枚目広葉樹の混交量の少ないトドマツ林、2枚目広葉樹の混交量の多いトドマツ林、3枚目キビタキ(3枚目は藪原佑樹撮影))

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洪水は河川生物の生息場所を壊し、個体数・種数を減少させる大きな撹乱となります。

一方で、複雑な構造をもつ自然河川では、洪水から逃げるための避難場(refugia)が形成され、河川生物の群集及び個体群維持に貢献していることが知られています。そこで、本研究では水生昆虫にとって、より重要な避難場を解明することを目的としました。

6つの平水時生息場(早瀬、平瀬、淵、よどみ、水たまり、細流)と平水時は陸域だった3つの洪水時生息場(岸際の緩流浸水域、早瀬浸水域、二次流路)で季節的洪水である雪解け洪水の前・中・後に調査を行いました。洪水によって本流内の早瀬、平瀬、淵ではほとんど水生昆虫がいなくなった一方で、他の生息場では減少がほとんどありませんでした。特に、本流に空間的に近く、洪水時も緩やかな生息場(よどみ、細流、緩流浸水域)が様々な分類群に共通した避難場として機能していました。近年、河川は人為的改変によって単調化しています。複雑な構造で維持されている避難場環境を失うことは、将来の種多様性低下を引き起こしかねないでしょう。(末吉正尚)

雪解け洪水に水生昆虫はどこに逃げているのか?

 

Sueyoshi M, Nakano D & Nakamura F (2014) The relative contributions of refugium types to the persistence of benthic invertebrates in a seasonal snowmelt flood. Freshwater Biology, 59: 257–271.

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木材生産と鳥類多様性の将来予測―分布モデルとシナリオ分析を用いたアプローチ

 

Toyoshima Y, Yamaura Y, Mitsuda Y, Yabuhara Y, Nakamura F (2013) Reconciling wood production with bird conservation: A regional analysis using bird distribution models and forestry scenarios in Tokachi district, northern Japan. Forest Ecology and Management.

木材生産をしながらいかに生物多様性を保全するか?木材自給が期待されながら、再造林率が低い日本でこの課題は特に差し迫っています。本研究では、林業活動が活発な十勝地域の民有林を対象に、鳥類密度と林齢の関係を天然林、カラマツ人工林、トドマツ人工林で統計的にモデル化しました。次に、複数の林業シナリオを作成し、本地域の今後100年間にわたる齢級構成や木材生産量、鳥類密度の変化を予測しました。

調査解析の結果、10~20年生までの若い人工林は遷移初期種が多く生息すること、林齢が増加すると人工林でも樹洞営巣種などが増加することが明らかになりました。また、現状の再造林率では今後人工林面積は減少し、人工林からの木材生産量も減少することが示唆されました。一方で再造林されない疑似草地が今 後大面積に累積すること、天然林の大規模な伐採は地域の鳥類多様性に大きなインパクトを及ぼすことなどが予測されました。 (山浦悠一)

(写真:上「3年生カラマツ人工林」・左下「73年生トドマツ人工林」・右下「天然老齢林」)

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外来種ブラウントラウトの定着に影響を及ぼす環境要因とは?

 

Kawai H, Ishiyama N, Hasegawa K, Nakamura F. 2013. The relationship between the snowmelt flood and the establishment of non-native brown trout (Salmo trutta) in streams of the Chitose River, Hokkaido, northern Japan. Ecology of Freshwater Fish.

近年多くの河川で、外来種の定着と、それに伴う在来生態系への負の影響が懸念されています。一旦定着・増加してしまった外来種を、完全に生態系から排除す ることは極めて困難です。そのため、「いかに外来種の分布拡大を未然に防ぐか」が、外来種管理で重要な課題の一つになります。そこで本研究では、世界の侵 略的外来種ワースト100にも指定されている、サケ科魚類のブラウントラウト(Salmo trutta)の定着に影響する要因を、北海道千歳川水系の10支流で調べました。

調査の結果、ブラウントラウトは融雪出水の規模が小さく、夏季水温が低い支流に定着しやすいことが示されました。このような特徴を持つ代表的な環境は、年間を通じて流量・水温が安定している「湧水河川」です。本種の分布拡大を防ぐためには、こうした湧水河川の定期的なモニタリング等を行い、侵入や移植を未 然に防ぐ必要があるといえるでしょう。(石山信雄)   *写真提供: 長谷川功

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都市における絶滅の負債(Extinction debt)のマッピング ~Megacity Tokyoからのメッセージ~

 

Soga M and Koike S (2013) Mapping the potential extinction debt of butterflies in a modern city: implications for conservation priorities in urban landscapes. Animal Conservation 16: 1-11.

近年、生息地の分断化に伴う生物種の減少・消失にはタイムラグが存在し、現在の生物相の分布パターンは必ずしも現在の景観構造のみでは説明できないことが 指摘され始めました。一見、現在は安定的な個体群であっても、将来的に多くの絶滅(絶滅の負債:Extinction debt)が生じる危険性があるのです。そのため、Extinction debt を早期に検出し、どのような種が今後消失していくのか明らかにすることは、将来的な生物多様性の消失を食い止める上で重要な手段となります。
そこで本研究では、東京都多摩地域において、蝶類を対象に Extinction debt の存在を検証、それらと生活史特性の関係について調べました。本地域では、1960年代に始まった多摩ニュータウン開発の影響で、40年という短い期間で景観構造が劇変しました。

図. 東京都多摩地域における蝶類の絶滅の負債の推定値.

その結果、過去のパッチ面積は specialist 種の種数に対してのみ正の影響を及ぼしていました。また、specialist 種の種数は、現在のパッチ面積から期待される種数よりも多くの種数が実際に確認されました。以上の結果は、本調査地における現在の specialist 種の分布パターンは過去の景観構造の影響を受けており、そのような specialist 種の中には、今後、分断化が進行しなくても消失する種が存在することを示唆しています。(曽我昌史)

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人工林と天然林における樹洞の分布と利用

 

Kikuchi, K., Akasaka, T., Yamaura, Y., Nakamura, F. 2013. Abundance and use of cavity trees at the tree- and stand-levels in natural and plantation forests in Hokkaido, Japan. Journal of Forest Research 18:389-397.

札幌近郊の野幌森林公園で樹洞の分布と利用を調べました。その結果、樹洞の数が多いと樹洞の利用が増えました。枝折れなどによって生成する自然樹洞は天然 林の樹洞を優占する一方で、キツツキ樹洞は人工林の樹洞を優占していました。樹洞は針葉樹よりも広葉樹や枯損木で多く、間伐が樹洞の数を減らすことも示唆されました。(菊地心)

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林業活性化が求められている日本においては、森林の約40%を占める人工林を持続的に利用する必要があります。間伐は人工林管理において不可欠な作業です。現在、日本では伐採木を単木的に選木する定性間伐が一般的ですが、近年木材の生産性向上と費用の縮減を図るため、植栽列や斜面方向に沿って直線的に伐採する列状間伐に注目が集まっています。本研究では、間伐方法の違いが鳥類群集に与える影響を検証するため、列状間伐区、定性間伐区、無間伐区をトドマツ人工林内に、対照区を天然林内に設置し、鳥類調査を行いました。

解析の結果、5種の鳥類が他の処理区に比較して列状間伐区に多く出現したことが明らかになり、特にアカゲラ、キクイタダキの2種は列状間伐区と強い結びつきを示しました。本研究は列状間伐がいくつかの鳥類種にとって有益であることを示唆しています。(豊島悠哉) 

間伐方法が鳥類群集に与える影響 ~列状間伐 vs 定性間伐~

 

Toyoshima Y, Yamaura Y, Yabuhara Y, Nakamura F.
A preliminary study on the effects of line and selective thinning on bird communities in Hokkaido, northern Japan. Journal of Forestry Research.

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ニホンザリガニにおけるスケール依存の生息場利用

 

Ishiyama N, Nagayama S, Akasaka T, Nakamura F. (2012.) Habitat use by endangered Japanese crayfish (Cambaroides japonicus) in low-gradient streams of southern Hokkaido, Japan: Reach and microhabitat scale analysis. Hydrobiologia

我が国唯一の在来ザリガニ類であるニホンザリガニは、現在急速な個体群の衰退により絶滅が危惧されている。本研究では、本種の保全を目的とし、緩勾配河川における本種の分布をリーチスケール(瀬や淵を含む20m程度の区間)および微生息場スケール(25 cm×50 cmの範囲)で調査した。

 

解析の結果、本種の分布を決定する要因は空間スケールによって異なっていた。リーチスケールでは、流域内でも源流部等の急勾配区間が本種にとって重要な保全対象域であることが示唆された。微生息場スケールでは、隠れ家となる大きな河床材料や植生カバーの存在、突発的な出水かく乱時の避難場となりうる河岸際への近さが本種の分布に強く影響しており、上記の微生息場の構成要素を保存・再生することの重要性が示された。以上の結果をふまえ、我々は今後のニホンザリガニの効果的な保全のためには、対象とする空間スケールに応じた保全策を講じる必要があることを示した。(石山信雄)

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モモジロコウモリ音声の地域変異を把握する ~コウモリ類の音声調査に向けて~

 

山中聡, 赤坂卓美, 中村太士 (2011) 北海道内のモモジロコウモリ Myotis macrodactylus における音声の地域変異. 哺乳類科学 51(2):265-275.

コウモリ類は日本の哺乳類の3分の1の種を占める非常に大きな分類群です。しかしながら、その分布や生息環境については未だに不明な点が多くあります。この原因としては、これまでのコウモリ類の分布を調査する方法が、その成果が調査者によって左右されやすく、そして長時間の夜間調査が要求される捕獲調査などに限られていた事が挙げられます。


そのような中で、コウモリ類の新たな調査方法として注目を集めているのが、コウモリの超音波を録音・解析することでコウモリの種類を把握できる音声調査です。音声調査はバットディテクターと呼ばれる超音波を記録する機器を設置し調査するもので、誰にでもできるため人手がかからず、また、調査時間も短縮できるため、今後のコウモリ類の分布の解明に大きく貢献する技術だと考えられます。
今回、この音声調査を実施する上で必要となる、コウモリ音声のデータベースに関する研究を行いました。もしコウモリの音声に地域変異があれば、種を判別するもとになる音声(音声データベース)は地域ごとに作成する必要があります。本研究では、2009年7月~9月にかけて北海道内の各地で本種の音声をバッ トディテクターで記録、解析を行いました。その結果、北海道内のモモジロコウモリには音声の地域変異は見られず、北海道全体で1つの音声データベースを使用できると考えられました。


音声調査を実施していくためには、今後もコウモリ音声データの集積を進める事が必要です。また、今回検討していない他のコウモリ種についても、音声に地域変異があるかどうか把握していくことが必要だと考えられます。(山中聡)

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農地景観におけるコウモリの生息地要求:スケールフリーな河川と森林の重要性

 

Akasaka T, Akasaka M, & Nakamura F. (2012) Scale independent significance of river and riparian zone on three sympatric Myotis species in an agricultural landscape. Biological Conservation 145:15-23.

野生生物の生息地保全を効率的に行うには、広域的な生物の分布を扱い、生物の生息地選択を複数の空間スケールで理解する必要がある。本研究では、同属のコウモリ3種を対象に、農地開発が著しい北海道十勝地方において、テレメトリー調査、GIS、そして統計モデルを用いて、採餌域と行動圏の2つの空間スケー ルで生息地要求(土地利用)を明らかにした。コウモリ類のハビタット要求は行動圏と採餌域では要求される環境は異なっていたが、双方で河川および森林が共通して好まれていた。これから、限られたコストの中で保全対策を行うためには、河川および森林が最も着目すべき景観要素であることを提言した。(赤坂卓美)

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